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東京地方裁判所 平成4年(ワ)11143号 判決 1993年12月27日

原告

佐藤泰山

右訴訟代理人弁護士

北沢義博

森川真好

被告

田中隆

被告

株式会社滝沢管工

右代表者代表取締役

瀧澤秀行

被告

有限会社平野開発

右代表者代表取締役

平野茂輝

右被告ら訴訟代理人弁護士

揚野一夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一被告田中隆は原告に対し、金一〇九九万円及びこれに対する平成元年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二被告株式会社滝沢管工及び被告有限会社平野開発は原告に対し、各自金一七九九万円及びこれに対する平成元年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告らに対し、原告が被告田中隆(以下「被告田中」という。)と被告株式会社滝沢管工(以下「被告滝沢管工」という。)、被告有限会社平野開発(以下「被告平野開発」という。)との間の不動産売買を仲介したとして、報酬契約に基づき、報酬金の残金(被告田中につき一〇九九万円、その他の被告らにつき各自一七九九万円)とこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

一請求原因

1  被告田中は、平成元年三月三日、被告滝沢管工、被告平野開発との間で、別紙物件目録一記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を代金六億九九六八万円で売る旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

2  被告滝沢管工は、平成元年一月一〇日、原告に対し、本件不動産につき売買契約の仲介を委託した。

3  被告滝沢管工は、平成元年一月三一日ころ、原告との間で、原告の仲介により本件不動産についての売買契約が成立した場合、報酬として売買代金の三パーセントを支払う旨合意した。

4  原告は、右仲介委託契約に基づき本件契約の成立を仲介した。

5  被告田中は、平成元年二月一六日、原告に対し、本件不動産につき売買契約の仲介を委託した。

6  被告田中は、平成元年二月二八日、原告の仲介により本件不動産についての売買契約が成立した場合、報酬として売買代金の三パーセントを支払う旨合意した。

7  原告は、右仲介委託契約に基づき本件契約の成立を仲介した。

8  被告平野開発は、平成元年三月ころ、原告に対し、本件不動産につき被告平野開発名義で売買契約を成立させることの仲介を依頼し、売買契約が成立した場合、報酬として被告滝沢管工と連帯して売買代金の三パーセントを支払う旨合意した。

よって、原告は、被告田中に対し、仲介委託契約に基づき、報酬金残金一〇九九万円及びこれに対する平成元年三月四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告滝沢管工と被告平野開発に対し、仲介委託契約に基づき、連帯して報酬金残金一七九九万円及びこれに対する平成元年三月四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実のうち、被告滝沢管工が原告に本件不動産の売買の仲介を委託したことを認める。

3  請求原因3の事実を否認する。

4  請求原因4の事実のうち、被告滝沢管工が原告に対し本件不動産の売買の仲介委託契約に基づき、原告が本件契約を仲介したことを認める。

5  請求原因5ないし8の各事実を否認する。

三抗弁

1  原告と被告滝沢管工、被告平野開発との間の本件不動産についての売買契約の仲介委託契約に基づく報酬と、原告と被告田中との間の本件不動産についての売買契約の仲介委託契約に基づく報酬は、いずれも宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)四六条所定の不動産の媒介に関する報酬であるところ、原告は同法所定の宅地建物取引業者としての免許を受けていないから、右報酬を裁判上請求することはできない。

2  被告田中は、原告に対し本件不動産についての売買契約の仲介を委託する際、別紙物件目録二記載の土地についての売買契約の成立の仲介もすることを条件とする旨合意した。

3  原告は、被告滝沢管工及び被告平野開発に対し本件不動産についての売買契約の仲介を受託する際、2の条件付契約であることを告知する義務があるのに、これを故意に告げなかった。

4  実務慣行として不動産仲介業者は売買契約締結後の境界確認に立会い、残代金授受、所有権移転登記手続及び物件の引渡しにも関与して契約の履行に努めることが義務となっているところ、原告は、不動産仲介業者として本件契約締結後の業務を放棄しているから、報酬残額の請求はできない。

四抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実を否認する。もっとも、原告が宅建業法所定の宅地建物取引業者としての免許を受けていないことは認めるが、原告は、本件報酬契約当時、業として宅地建物取引を行っていたものではなく、宅建業法の適用を受けない。

2  抗弁2及び3の各事実を否認する。

3  抗弁4の事実を否認し、主張は争う。

第三理由

一被告田中と被告滝沢管工及び被告平野開発は平成元年三月三日本件不動産を代金六億九九六八万円で売る旨の本件契約を締結したこと、被告滝沢管工は原告に対し本件不動産につき売買契約の仲介を委託し、原告は右仲介委託契約に基づき本件契約を仲介したことは、当時者間に争いがない。

二証拠(<書証番号略>、原告、被告滝沢管工代表者、被告平野開発代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和六〇年に株式会社京成商事に雇用され、以後その従業員として不動産取引に関与するようになった。その後、原告は信和不動産に移り、不動産取引に引き続き関与してきた。ただし、原告は、宅建業法による宅地建物取引業者としての免許を受けていない。

2  被告滝沢管工は、建築・土木工事の設計及び施工や不動産の売買・仲介等を目的とする会社であり、宅地建物取引業者でもある。代表取締役は瀧澤秀行(以下「瀧澤」という。)である。

3  原告は、昭和六二年ころ不動産取引に関与する中で瀧澤と知り合い、その後も、瀧澤とは知り合いの不動産業者の事務所で何度か顔を会わせるという間柄であった。ただし、原告と瀧澤は直接の取引経験はなかった。

4  平成四年一月一〇日、原告が被告滝沢管工事務所に年始の挨拶に行った際、瀧澤からいい物件があるからと言われて、本件不動産を案内された。瀧澤は、原告に対し、本件不動産には仲介業者がかなり入っていて、自分が第三者に売るようにするから、謄本、公図等を取って持主を調べて、交渉をしてくれと委託した。そこで、原告は、本件不動産につき登記簿謄本と公図を取って調べたところ、所有者は株式会社千代田組であることが判明した。そこで、原告が株式会社千代田組と交渉したところ、三井信託銀行に本件不動産についての売買の専任をしたと言われた。そこでさらに原告は、三井信託銀行の担当者と会って本件不動産の件について問い合わせたところ、複数の譲受希望者の中から被告田中が買主としてほぼ決まったという話を聞いた。

5  そこで、原告は、被告田中に電話をかけて、平成元年二月一六日、被告田中と会い、本件不動産を譲ってくれるように依頼した。その後も再三にわたって被告田中に対し譲ってくれるように依頼したところ、被告田中から本件不動産を本当に買う気があるなら、買付証明書をもらってくるように言われた。

6  原告は、それまで、瀧澤に対し何度か本件不動産についての調査結果を報告しており、瀧澤から平成元年一月三一日付けの本件不動産の買付証明書(<書証番号略>)を作成交付してもらっており、平成元年二月二一日被告田中に右買付証明書を渡した(<書証番号略>)。そして同月二五、六日ころ被告田中から被告滝沢管工が最有力となったという連絡を受けた。

7  平成元年二月二八日、被告田中は株式会社千代田組から本件不動産を買う契約を締結し、決済が行われた。この時点では既に被告滝沢管工への転売が事実上決まっていたので、被告田中の登記は中間省略されることになっていた。原告はこの決済にも立ち会い、契約書類の確認をした。

一方、被告滝沢管工は、本件不動産購入の資金計画の一案として被告平野開発との共同購入の方法を考え、被告平野開発にその旨打診したところ、その了解を得て共同で買い受けることになった。

8  平成元年三月三日、被告滝沢管工の事務所において、被告田中と被告滝沢管工の代表取締役瀧澤、被告平野開発の代表取締役平野と原告が集まり、本件契約を締結した。ただし、当日の朝、瀧澤から原告に対し、名義人は被告平野開発にしてほしいという申入れがあり、本件不動産の買主の名義を被告平野開発にすることになった。

9  本件契約締結の際、売買契約書(<書証番号略>)を作成した。この契約書の仲介業者欄に原告が記名押印した。右契約書第一三条には「売主・買主とも、仲介業者に対しては本契約締結にもとづいて、約定の報酬を支払うものとする。中途解約したときも同じく支払うものとする。」旨の記載がある。

10  また、原告は、その際、本件売買契約締結の報酬として、売買代金額の三パーセントを貰うこととし、そのうち被告滝沢管工から三〇〇万円を小切手で受領し、被告田中からは一〇〇〇万円を現金で受領した。そして、報酬の残額は三月末か四月の決済の時に全額支払うということになった。

三以上認定の事実によれば、原告と被告滝沢管工は本件不動産の売買契約の仲介委託契約の報酬額を売買代金の三パーセントとする旨合意したことを優に認めることができる。また、原告は、被告田中からも本件不動産の売却の仲介の依頼を受け、その依頼に基づいて仲介した結果本件売買契約が成立したこと、その報酬額を売買代金の三パーセントとする旨合意したことも優に認めることができる。さらに、原告と被告平野開発との間でも、平成元年三月三日本件売買契約の締結までの間に、被告平野開発が原告の本件売買契約仲介の報酬として被告滝沢管工と連帯して売買代金の三パーセントの額の報酬を支払う旨の暗黙の合意をしたと認めるのが相当である。

もっとも、被告滝沢管工代表者の供述中には、これに反する部分があるが、前記認定の事実に照らし、たやすく措信しがたい。

また、証人吉澤好文の証言、<書証番号略>(被告田中の陳述書)の中にも、これに反する部分があるが、あいまいかつ不自然である上、前記認定の事実に照らし、たやすく措信できない。

他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

四そこで、抗弁1の事実について判断する。

1  原告が宅建業法所定の宅地建物取引業者としての免許を受けていないことは、当事者間に争いがない。

2  ところで、「宅地建物取引業を営む」とは、営利の目的で反復継続して行う意思のもとに宅建業法二条二号所定の行為、すなわち宅地、建物の売買等を仲介する行為をなすことをいうと解すべきである。

3  そこで、本件契約を仲介した原告の行為が業としてなされたものであるかどうかを検討する。

この点につき、原告は、本件売買契約仲介当時不動産業に携わっていたのは免許業者の被用者としてであって個人としてではないし、本件契約の仲介以外に宅地建物の仲介をしたことがないから、宅地建物の仲介を業とするものではないと主張し、これに沿う供述をする。

しかしながら、他方、前記認定のとおり、原告は本件契約の締結につき買主側の被告滝沢管工、被告平野開発はもとより売主側の被告田中とも売買契約を仲介する契約を締結し、しかもその報酬として売買代金の三パーセントの支払を受ける旨合意したこと、原告は、本件売買契約の締結の際作成した売買契約書(<書証番号略>)の仲介業者欄に自ら記名押印していること、右契約書第一三条には「売主・買主とも、仲介業者に対しては本契約締結にもとづいて、約定の報酬を支払うものとする。」と規定されていたことが明らかである。

また、証拠(<書証番号略>、被告滝沢管工代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告が被告田中に会った際に交付した名刺には「不動産・建築・設計」と記載してあり、不動産関係の仕事をしているように表示していたこと、被告滝沢管工の代表取締役瀧澤は、原告を同被告と同様の不動産仲介に係わっている者と認識していたことが認められる。

これらの事実を総合すれば、原告は宅建業法二条二号所定の宅地、建物の売買を仲介する行為に当たる本件契約の仲介行為を営利の目的でなしたことは明白である上、これを反復継続して行う意思のもとにしたことも優に推認することができるというべきである。

4  そうすると、原告は、宅建業法による宅地建物取引業者としての免許を受けていない者であり、仲介委託契約により報酬を請求していることが明らかである。そこで、宅建業法による宅地建物取引業者としての免許を受けていない者は、仲介委託契約における報酬請求権が成立する場合であっても、裁判上、その請求権を行使することが許されるかどうかを検討する。

宅建業法は、その三条一項で「宅地建物取引業を営もうとする者は、建設大臣又は都道府県知事の免許を受けなければならない。」と規定し、一二条一項で「第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。」と規定し、さらに七九条で「第一二条第一項の規定に違反した者に対しては三年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と規定し、五条一項で右免許の申請について一定の欠格事由を規定する等している。

右規定の趣旨は、主として行政取締の必要上免許を得ないでこのような行為を営業としてすることを規制し、刑罰によってこれを防止しようとするものである。また、無免許業者が宅地建物取引業者を営むことに対して刑罰の制裁があることと無免許業者との仲介委託契約の効力の有無とは別個独立の問題である。以上の諸点に鑑みると、無免許業者のした仲介契約も実体法上有効であると解するのが相当である。そうすると、無免許業者も仲介委託契約に基づいて報酬請求権を有するものというべきである。

しかしながら、右報酬請求権の裁判上の行使を認めるかどうかについてはさらに別個の考慮が必要である。すなわち、国が一方において宅建業法により無免許営業については刑罰の制裁をもって禁止していながら、他方において無免許営業による利益の確保に力を貸すことは矛盾であって、いわゆるクリーンハンドの原則に反し相当でないから、無免許業者が、その報酬請求権につき、裁判外において報酬を授受する場合は格別、裁判上行使することは許されないと解するのが相当である。

もっとも、原告は、宅建業法が無免許業者を規制しているのは、もっぱら不動産取引の知識経験に乏しい一般大衆保護のためであって、その趣旨の範囲外で当事者間で成立した契約を規制する必要はないところ、被告滝沢管工や被告平野開発はいずれも免許業者であり、被告田中も不動産業を専門に行っている者であるから、原告が無免許業者であったとしてもこれにより被告らが害されるおそれは全くなく、不動産取引の公正が害されたり、一般大衆たる仲介委託者の保護という宅建業法の立法趣旨を損なうおそれもないし、かえって、原告の報酬請求権の裁判上の行使を認めないことは当事者間の公平を著しく損なうものであるから、報酬請求権の裁判上の行使を認めるべきであると主張する。

しかし、前述したとおり、右報酬請求権の裁判上の行使を認めるかどうかは、もっぱら、国が一方において宅建業法により無免許営業については刑罰の制裁をもって禁止していることを、他方において無免許営業による利益の確保に力を貸すことができるかという問題であって、原告が主張するような当事者間の公平の確保や宅建業法の立法趣旨に違反しない事情の存在という問題とは次元を異にする問題である。したがって、原告の右主張は、採用することができない。

したがって、原告は被告らに対し、仲介委託契約に基づき、報酬として金員を請求しえないというべきである。

五以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

(裁判官畠山稔)

別紙物件目録一

(一)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱弐弐番

地目 宅地

地積 参四七、〇〇平方メートル

(二)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱弐参番

地目 宅地

地積 四〇参、〇〇平方メートル

(三)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱弐四番

地目 宅地

地積 参四参、〇〇平方メートル

(四)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱弐五番地

地目 宅地

地積 七九六、弐六平方メートル

(五)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱弐五番弐

地目 宅地

地積 弐九〇、〇〇平方メートル

(六)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱弐七番地

地目 宅地

地積 壱九八、〇〇平方メートル

(七)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱弐七番弐

地目 宅地

地積 五九五、〇〇平方メートル

(八)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱弐八番

地目 宅地

地積 弐八七、〇〇平方メートル

(九)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱弐九番

地目 宅地

地積 参五〇、〇〇平方メートル

(一〇)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

地番 壱参〇番壱

地目 宅地

地積 四六弐、〇〇平方メートル

(一一)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

壱弐五番壱

家屋番号 壱弐五番壱

種類 居宅、工場

構造 鉄骨スレート亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積 七五壱、参八平方メートル

(一二)、

所在 埼玉県北葛飾郡吉川町大字土場字大場川

壱参〇番壱

家屋番号 壱参〇番壱

種類 工場

構造 鉄骨スレート葺平家建

床面積 五参五、五参平方メートル

別紙物件目録二

(一)

所在 草加市柿木町字松

地番 壱〇八六番壱

地目 雑種地

地積 五七五平方メートル

(二)

所在 同所

地番 壱〇八六番弐

地目 雑種地

地積 六〇〇平方メートル

(三)

所在 同所

地番 壱〇八六番四

地目 雑種地

地積 八弐九平方メートル

(四)

所在 同所

地番 壱〇八七番参

地目 雑種地

地積 九参参平方メートル

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